龍を目の当たりにした者は、幽霊の存在にさえ気付かない

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 一向に話が進まないことに業を煮やしたのか、翠玉が新兵衛の命石に鼻先を近付けた。命石は紫の袋でも隠しきれないほど強く青い光を放ったままだ。翠玉とて、命石に触れるのは避けたいだろう。それでも鼻先を向けてきたことで、新兵衛は気がついた。 「なるほど。分かった」 「えっ? 何が分かったのですっ?」 「まぁ見てろ。命石には、こんな使い方もある」  新兵衛は命石を腰の帯から外すと手で包み込むようにして持ち直した。そして、翠玉の額にその手の甲をぴたりと付けた。命石は魔性生物を拒絶する。善悪に関係なく排除しようとしてしまう。”もの”を介せば攻撃に。人を介せば意思次第。だから、新兵衛の手を仲介して命石の力を翠玉に伝えるのだ。翠玉の”記憶”を見る為に。 「……へぇ。そうか。なるほど、な……」 「新兵衛? 何ぶつぶつ言っているのですっ?」  翠玉も新兵衛も目を閉じて、身じろぎもせずに約四半刻。新兵衛は言葉の操れぬ翠玉の為、”意思”を直接やり取りしている。今の新兵衛には、翠玉の見てきたことが同じように見えている。くわ、と新兵衛の目が開いた。 「追われてんのか、お前ら?」 「えっ? 追われて? 誰にですっ?」  新兵衛と澄は、星姫に真っ直ぐな目を向けた。
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