22人が本棚に入れています
本棚に追加
「ところでお前、俺を取り殺したりするつもり?」
「え? そんなことしませんよっ。私、ただ成仏したいだけなんですもんっ」
「ですもんて。それならいいけど、なんで俺に取り憑くの?」
「いや、なんか吸い寄せられちゃって。えへっ」
「えへっとか。お前、もう死んでるわけだろ? なんでそんなに明るいの? 俺、ぶっちゃけそこが一番怖いんだけど」
考えてみるとそうだった。幽霊とは、成仏出来なくて世を彷徨うものである。その理由は現世への心残りがあるからだと言われている。たいていが恨みや憎しみといった負の感情によって引き起こされる悲劇である。すなわち、明るい幽霊など存在理由を求めるのが難しい。新兵衛は、すぐにそのことに気づいていた。
「はぁ。なんでと言われても、そういう性格だからとしか答えようがないですよっ」
「お前、生前って超適当に生きてない?」
「なんでですかっ。それってちょっと失礼じゃないですかっ」
澄はぷくっとほっぺたを膨らまし、きーっと怒って新兵衛の頭をぽかぽか叩いた。が、所詮は肉体のない身である。新兵衛の頭には、ふよふよとそよ風が当たっているような感触しか伝わってこなかった。
「……それにしても、おかしいな……」
澄にぽかぽかと叩かれながら、新兵衛は帯に提がる紫の袋に目を落とした。〈命石〉の入った袋である。
「もう、聞いてるんですかっ。……あれ? その袋って、なんですかっ?」
「これは……。え? お前、〈命石〉を知らないの?」
「〈命石〉?」
澄が首を傾げた時、二人は柳生城の大手門前に立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!