龍を目の当たりにした者は、幽霊の存在にさえ気付かない

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「むぎゅ。お、追われてなどいないのじゃ。しつこく付いてくるやつらがいるだけなのじゃ」 「拙者は星姫の意向に沿うだけだ。逃げてなどおらぬ」 「それを追われてるって言うんだろ? 参ったな。こいつ、相当面倒くさいことやらかしてるぞ」 「面倒くさい? しんべー、それはどういうことですっ?」    と、澄が身を乗り出した時だった。 「話が長くなりそうですな。良ければうちへ来ませんかな?」 「ん?」 「おじいさんっ?」  突然話に割って入ってきたのは、あのじじいだった。完全にイってしまっているじじいだと思っていた新兵衛は、普通に話しかけられて内心かなり驚いていた。 「いたんだ。存在、すっかり忘れてたよ……」 「ひっひっひ。わしもどうしてここにいるのか、さっぱり覚えていませんわい。ひっひっひっひっひ」  じじいは、どこからどう見ても農民だった。しわくちゃの顔、多く抜けた歯、粗末な着物。ここにいると、その全てが際立ってしまう。だが。 「いい人そうな笑顔ですっ」  澄がじじいに微笑み返した。     *    *    *  新兵衛が星姫の代わりに礼を述べた後、翠玉は役目を果たしたとばかりに空高く舞い上がり、山奥へと飛び去った。ほどなく命石の輝きは消え、あたりは闇に包まれたのだった。
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