龍を目の当たりにした者は、幽霊の存在にさえ気付かない

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「いーや。俺は地面に手を付いていない。だから俺の勝ちだね」 「にゃにおぅ! うちはか弱い姫なるぞ! そちより年下だし力も弱い女子なのじゃあ。その分を考慮すれば、絶対うちの勝ちなのじゃあ。みゃあああ」 「大人げないですねぇ、新兵衛……。どっちもどっち、って感じですけどねーっ」 「いや、星姫の方が可愛いので勝ちだろう。まるで勝負にならぬな、これは」 「くっそー。澄なんか浮いてるんだから卑怯だぞ。お前にそんなこと言われるのは許せない」 「そうじゃそうじゃ。浮いておるなど、卑怯……。にゃに? 浮いて?」 「そう言われれば……」  星姫と若い侍は今更のように澄を見遣った。じろじろと上から下までしっかりと見た後、 「にぎゃああああああ! こやつ、幽霊なのじゃああああああ!」  星姫の絶叫が、深く暗い森の中で木霊した。   「あれ? 今頃ですかっ?」  澄が困ったように笑ってみせた。 「まぁなぁ。翠玉の後じゃ、幽霊にまで気が行かなかったかも知れないな」  新兵衛はくつくつと喉の奥で笑うのだった。
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