認知症のじじいにラリアート

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    *    *    * 「にゃああ。そうか、澄は成仏したいだけの、良い幽霊というわけなのじゃあ。祟ったりしないのだな? ホントのホントに大丈夫なのだな?」 「しつこいな。お前、かなり怖がりだろ? 澄なんて、茶屋の娘でも仲良く話してくれるのに。毛利家のお姫様がそんなんじゃ、少し格好がつかないかもな」 「にゃにおぅ! うちが茶屋の娘になど負けるものか! ふん、うちは初めから怖がったりなどしてないのじゃ! のう、カメ?」 「もちろんでございます、星姫様。姫は日の本最強の姫なのです。そんな幽霊ごときより可愛くないはずがございません!」 「幽霊ごときとか言われたけども」 「……ですねぇ。なんか少しズレてますけど、分かってもらえたならいいのですっ」    そして、星姫が澄を怖くないものとして認識し、安心した頃だった。 「あらあら。まぁまぁ」  あばら家から出てきて手を口に当てているのは、おそらくは20代後半であろう女性だった。質素な紅染めの着物だが、さほど傷んでもいない。じじいに比べれば身なりはしっかりしており、清潔感すら与える印象だ。器量よしとは言い難いが、肌つやのいい健康的な女性だ。新兵衛はすっと立ち上がると、女性に向けて頭を下げた。
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