認知症のじじいにラリアート

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「大丈夫です。ふふ。柳生の坊ちゃんは変わり者だって聞いてましたけど、どうやら本当だったみたいですね」 「参ったな、そんな噂が流れてんの? でも、俺は普通だよ。あいつらも普通なわけだけど」  新兵衛はカクの手を取り家の中へと入ってゆく。 「あっ。さりげなく手なんか握っちゃってますっ」  澄はいっそう頬を膨らませた。直後、 「ばあさぁぁぁぁぁん! どこにおるんじゃ、ばあさ――――んっ!」 「うおっ! じじい、また猛烈に駆け出してる!」  家の奥から、じじいが猛然と走ってきた。そこへ、 「どこ行く気ですか、おじいちゃん。もう夜も遅いんですよ」 「がぺしっ!」  カクのラリアートが、じじいの首に的確に決まっていた。カウンター気味にヒットしたカクの腕が、じじいの足を宙に浮かせた。じじいは首を支点に逆上がりするかのようにくるりと回ると、背中から土間に叩きつけられた。 「「ええええええ!」」  新兵衛と澄が絶叫した。じじいは土間で仰向けに倒れたまま、ぴくぴくと痙攣してしまっている。口から泡まで噴いているところを見ると、これは相当なダメージだ。後頭部とかがっつり打ち付けてもいるので、認知症は進行しただろう。 「すいません、お恥ずかしいところを。こうでもしないと、すぐにどっかに行っちゃって。おばあちゃんなんてもう何年も前に亡くなったのに、最近、すっかり呆けちゃって。ほほほほほ」  カクは自分の引き止め方がその原因の一助であることに気づいていない。 「そ、そうなんだ……」 「ふわー。一般家庭にも、こういう戦いがあるのですね感動ですっ」  澄は感動していたようだが、新兵衛はしっかりと脳髄に刻み込んだ。カクの腕力に、自分では勝てない、と。
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