波兎

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「やめておけ。無駄な殺しをする理由はない」 「それはテメェの都合だ。残念ながら、俺には理由があるんでなァ!」  身を屈め地面を蹴った出木は、その勢いのまま日本刀を吉備へ向け振るった。まるで木の棒でも捌くように身を翻した吉備は、空中を背負ったままでも見事にその切っ先を躱し、屋上の縁に片足で立った。 「……どういうつもりかな。名目上、"仲間同士"での殺し合いは御法度のはず。ここのところ、お前の行動は目に余る」 「知ったことか。あの野郎は俺の獲物だ、テメェにくれてやるかよ!!」  一筋、二筋と刀を振るうも、出木の攻撃は一向に当たらず空気を切り裂くばかりだった。絶妙なバランス感覚を保ったまま出木の足を払った吉備は、仰向けに倒れた出木の頭上で飛び上がり、両足で腹を踏みつけた直後、右足だけをスライドさせ足の裏全体で顔を踏み頭を地面に擦りつけた。 「まったく鍛錬が足らん。お前は警察組織の中でこれまでなにをしていたのだ。そんなことだから、前田程度に遅れを取ることになる」  隙を突かんとばかり、出木がどうにか振るった一太刀も躱した吉備は、煙草を出木の胸元へ弾いてみせた。熱さで無様に煙草を払う様子を見て、吉備は虫けらでも見るように出木を嘲笑った。
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