一人

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「どうすればいいの?  何かいいネタは無いの!? 絶対あるは  ずよ! こんなセコいアイドルの隠し撮  り写真や熱愛記事なんかより、もっとこ  うセンセーショナルな何かが!?」  女は自分自身に問いかける。絶対無二の自信で飛び込んだ業界にも関わらず、未だ結果は伴わずくすぶり続けている。フリーランスの身の上で出来る仕事は限られていながらも、どうするべきなのか、自分自身に問うしか方法はない。 「....またそれっすか?  先輩、いつもそんなこと言ってますね。  俺達には無理っすよ、コネも金も、何し  ろツキすらないんですから」  首を擡(モタ)げる女の後ろ、剥がれかけた壁紙を背に腰掛けた若い男が皮肉を込めて言う。カビ臭い築30年のアパートの中、傷だらけのフローリングの上で床板を軋ませる。 「あんた悔しくないの!? 同期の植松は  どんどん名前を売って、いよいよ専属契  約とか言われてるのよ?  それに比べて私達は何!?  こんな狭っ苦しいアパートで、昼間から  何もせずダベってばかり!」 「そんなこと言っても仕方ないでしょ!?  あの現場、先輩のせいで出入り禁止にな  っちまったんだから!  そんなこと言うならネタ下さいよネタ!  無いんでしょ? なら俺にあたるのはお  門違いでしょうに!」
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