一人

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 女は大袈裟に一つ地団駄を踏むと、鼻息荒く紙屑を投げ捨てる。若い男はやれやれとその紙を拾い上げると、静かに屑かごへ移動させる。 「とにかく! このままじゃ私達の居場所  は無くなるの!  少しでも飯の種になるようなネタ、手に  入れなきゃならないのよ。何かいいネタ  ないの!? あんただって曲りなりにも  フリーのライターなんでしょ!?」  怒り心頭収まらない女は矢継ぎ早に男を追い立てる。そして同時に薄い壁の向こうからは、隣人の咳払いも聞こえていた。 「もう無いっすよ。今回の件だって、何と  か俺が同期を頼ってねじ込んでもらった  仕事だったのに。  いっつも文句ばかりの先輩に、そんなこ  と言われる覚えはないっすね」  今にも飛びかからんばかりの女をひょいと交わすと、男は一言「コンビニ行ってきます」と残し、部屋を出て行ってしまう。女も図星を突かれたとばかりに、少しだけ落ち着きを取り戻し、また項垂れた。
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