一人

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「........そんなこと、私が一番分かって  るわよ。いつもそう、私って何でいつも  こうなんだろ」  女は部屋の隅で膝を抱える。この道に進んで四年弱、未だ一つの結果も出せていない。同期として同じ世界に飛び込んだ人間は、少しずつ結果を出しつつある。女の中にあるのはただひたすらの焦燥と不安。吐きどころのない胸のもやもやを抱え続けていた。  辺鄙な片田舎から身一つで大学に入り、とても優秀とは言えない差し障りの無い成績で卒業するも、志望者の多い大手出版社からは声も掛からず、それでも諦めきれず大学時代にバイトをしていた弱小出版社にしがみつき、何とかフリーランスの記者として今を食い繋いでいる。既に貯金も底をつき、このボロアパートを借りる金すら捻出できずいた。 「一発逆転の何か.... 誰も知らない、そ  んな情報....」  しかし世の中都合良く回りはしない。日銭を稼ぐ為にこなしてきた、自らが言うところの"セコい仕事"が本職になりつつある現実に途方に暮れる。カメラマンとして雇っている後輩の政井(マサイ)にしても、バイトが本職になりつつある、ただの素人と言っても違いはない。 「何がITバブルよ.... 私達には一つも  恩恵なんてないじゃない」
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