波兎

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「翔子さんが前に言っていたのを思い出してな。稲村会が関わっていたって例のフロント企業潰し、詳しく聞けばリストの中にはまだ別のフロント企業が沢山あったそうじゃないか。だとすると、そもそもからして不自然なんだよ。今回の事件、"本当に俺たちだけが標的にされたのか"ってとこが」 「……え? でもちょっと待って。その言葉をそのまま受け止めると、違う意味になるんだけど」 「そのままでいいと思うぞ」  近藤は最後に残っていた大きなバインダーを開き、指の背でコツコツと叩いた。そこには過去に倒産した企業の名が刻まれていた。 「飯村電機、ちょうど糸井家と同じ頃に問題になった中堅の企業だ。そしてその会社の役員に笠井の名前があった。笠井の前身企業も、奴らの手によって潰されていたってことだ」  飯村電機の経営者情報に綴られた笠井の名に、千歳と政井の視線は釘付けになった。もし仮に笠井が別件事件の調査を行っていたとするならば、同時期に稲村会に関わった糸井家を警戒しないはずがない。なにより息子である忠志は、その後、稲村会への関与が明らかになっている。笠井にしてみれば、糸井家が稲村会と関係を持っていたと勘ぐるのは当然で、むしろ糸井家による他社の崩壊を目論んだと取るのが自然だった。
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