波兎

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「悪いがもう俺たちは大手を振って関わることができん。精々後ろからサポートするのが限界だ。そこでどうだろう、稲村会と笠井の関係者はこちらで預かろう。君らは引き続き吉備と"もう一人"を追ってくれ」 「もう一人?」と政井が相槌を打つ。未だ一人気づかずにいる政井が首を振れば、いよいよ呆れた近藤が結論を急いだ。 「お前馬鹿か。普通気づくと思うがな」  近藤はこれまでに名前が出た人物を紙に書き出した。そうして動けなくなった者や保護された亜香里や優斗を除外し、たった一人宙に浮いた人物をあぶり出した。 「荒井、政井、翔子さんに俺。これが一つ目のグループだ。そして涌井、新太、忠志が一緒に行動しているとして二つ目。そして吉備を始めとする奴らの仲間(出木ら)が三つ目。四つ目が単独で動いている鳥居朱美。そして最後、ぽっかりと忘れ去られた人物が一人いるだろ。少し前まで自宅で殺されたとされ、ずっとそのままになっていた人物だ」 「……殺された? あれ、そういえばそうだ、糸井家で殺されていたのは、"稲村会の構成員"。だったら、あの人はどこへ行ったんだ」  頷いた近藤は、いよいよ気づいた一人の名を、先より強く指の背で叩いた。 「そう、ずっと姿を消したままなんだよ。お前らがあの家へ行く前から、"糸井卓"はただの一度も、俺たちの前に姿を見せていない!」
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