波兎

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 最初に気づいたのは田辺だった。  刑事特有の勘、とでも呼ぶのだろうか。夜明けが近い街中で、己を見張るべったりとした視線を察知するも、それがどこから向けられたものかは分からなかった。 「私、……狙われてる?」  臼井のようにはいかないと三百六十度に気を配るも、周囲に人の気配はない。ならば狙撃かと背中を壁伝いに預けてみるが、撃ってくる様子もない。あまりに不気味な状況に、田辺は念のためと踏み込んだ小道で携帯電話を取り出した。最悪を想定し江口へ連絡を入れようとするのも束の間、身に覚えのない番号からの着信に冷や汗を拭う。 「……もしもし。誰かしら、こんなことする悪い子ちゃんは」  田辺の問いにしばし黙った何者かは、再度質問をした田辺に対し、酷くくぐもった声で言った。 『それ以上動くのは止めておけ。これは最後通告だ、これ以上動くのは止めろ』 「あーら、一体誰かと思ったら。まさか"大ボス"から直接連絡なんて、随分と不用心なのね」
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