波兎

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『逃げろだぁ? なんだ、いきなり』 「吉備が予告してきた、つい一分ほど前よ。五分以内に今回の件から手を引かなければ、あんたを殺すって!」 『……なんだと?』 「良いから、すぐにその建物を離れて! あんたが外に出なければ、病院ごとやられるかもしれないってことよ!」  すぐに通話を切った前田は、袖に座っていた江口を睨みつけ、「すぐに出るぞ」と自らに繋がれていた医療用のケーブル束を引きちぎった。意味も分からず頷いた江口は、痛む体をどうにか動かし、重度の火傷を負っている前田の肩を担いだ。 「エレベーターを待ってる暇はねえ。非常階段で外へ出る。クソッ、身体の自由が利かねえ。江口、もっと腰に力入れろ!」 「馬鹿野郎! こっちもあんたほどじゃないが、撃たれるわ爆発に巻き込まれるわで全身やっちまってんだよ!!」  予め頭に入れていた非常口を目指した二人は、足を引きずりながらどうにかフロアの端にある非常階段へ飛び出した。腕時計の針を見れば、田辺との会話から既に二分が経過していた。 「おいおい、このペースじゃ間に合わねえぞ! ここが何階だと思ってんだ江口ぃ! 爆破されたら何人死ぬか想像してみろ!!」 「黙ってろ馬鹿ゴリラ! だったらテメェも少しは身体を張れってんだ!」
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