やかんとおかんと時々ぼかん。

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無言でツムグの前を歩むアキラ。 その後を所在なげに歩くツムグ。 ツムグの頭の中はぐちゃぐちゃになっている。 何から話せばいいのか、何を話せばいいのかわからないのだ。 自分の身の上を隠していたことを謝るべきか。 本当はまたいなくなるつもりであった。 居心地の良すぎる、ホーム。 それはまだマイホームではない。 そうならないように、どこかで一線を引くように努力してきた。それを謝ればいいのか。 いつかは向こう側に帰るつもりの心中を謝ればいいのか。 わからない。 わからないまま、アキラの背中から伝わってくる怒気に怯え、とぼとぼと歩く。 「・・・ねえ。ツムグさん。」 アキラの足が止まる。 「はい・・・。」 言葉に不安が積もる。 出ていけと言われるのか? それが不安で。自分から出て行こうとしていた自分が、それを不安がっているのに困惑し。 「・・・あなたがどこか違う、遠い世界からきたこと。 だいたい予想ついてたのよ。」 驚愕。 一瞬驚き、そして納得する。 アキラは、自分が探しにきた異邦人もげおの義理の娘だと言っていた。それならばわかるのかもしれない。 「・・・だけど、言い出せなかったわ。     なせだか、わかる?」 その、アキラの声は少し震えていて。    ツムグは気づく。 ああ。彼女も、本当の俺の胸の内と一緒だったんだ・・・。 この幸せを失いたくないから。 何かを知って、何かが変わるのが怖かったから。 「・・・俺と同じ。」 「・・・そう。やっぱりあなたも。 私も一緒。 私も、怖かった。」 振り向き、真っ直ぐに見つめてくるアキラ。 「だけど、知ってしまったから。 知らなかったころには戻れないから。 だからはっきり、言っておくね。 私には子供達がいる。      私は・・・ あなたとは行けない。」 そのしっかりと胸を張り、自分の意志の強さを伝えてくる彼女の、 その小さな手が震えていることに気づき。 思わず抱きしめるツムグ。 「・・・わかってる。 だけれども・・・愛してしまった・・・。」 どうしようもない現実に、涙の雨が降る。
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