私に構わないで

39/40
281人が本棚に入れています
本棚に追加
/758ページ
「やったぁ~。孝二だけズルイって思ってたんだよ。ありがとう、美羽ちゃん」 はしゃぐ黒岩にうんざりしながら、時計を見る。 9時55分…。もう充分でしょ。 荷物を鞄の中に入れ、財布を取り出す。お金を出して、机の上に置く。 「じゃあ明日も朝早くからバイトあるんで。これで帰ります」 立ち上がってペコリと頭を下げる。 「お疲れー」 「片瀬さんまたバイトで」 「気を付けてなー」 「えっ!?美羽ちゃん帰っちゃうの!?」 「黒岩、バイトだから帰らしてやりなって」 川上の声を背中に出入り口に歩き出す。 扉に手を掛けた時。「美羽ちゃん!」と呼ばれた。 声で高峰だと分かっていたので、振り向いて顔だけ見る。 「今日は来てくれてありがとう」 「いーえ。でも次は言った通り誘わないでね」 「…分かった」 そう言って高峰は黙った。 話がないなら帰る。また扉を開こうとすると、「さっきはどうかしてた…」と呟いた。 「美羽ちゃんを怒らすつもりはなかったんだ。ただ…、何か気付いたら腕を掴んでて…」 そのことか。私は小さくため息を出す。 「気にしてないし、怒ってもないから、高峰も気にしないで」 「ホントに…?」 「うん」 「ならよかった」 ホッと、安心したように高峰が笑った。
/758ページ

最初のコメントを投稿しよう!