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「やったぁ~。孝二だけズルイって思ってたんだよ。ありがとう、美羽ちゃん」
はしゃぐ黒岩にうんざりしながら、時計を見る。
9時55分…。もう充分でしょ。
荷物を鞄の中に入れ、財布を取り出す。お金を出して、机の上に置く。
「じゃあ明日も朝早くからバイトあるんで。これで帰ります」
立ち上がってペコリと頭を下げる。
「お疲れー」
「片瀬さんまたバイトで」
「気を付けてなー」
「えっ!?美羽ちゃん帰っちゃうの!?」
「黒岩、バイトだから帰らしてやりなって」
川上の声を背中に出入り口に歩き出す。
扉に手を掛けた時。「美羽ちゃん!」と呼ばれた。
声で高峰だと分かっていたので、振り向いて顔だけ見る。
「今日は来てくれてありがとう」
「いーえ。でも次は言った通り誘わないでね」
「…分かった」
そう言って高峰は黙った。
話がないなら帰る。また扉を開こうとすると、「さっきはどうかしてた…」と呟いた。
「美羽ちゃんを怒らすつもりはなかったんだ。ただ…、何か気付いたら腕を掴んでて…」
そのことか。私は小さくため息を出す。
「気にしてないし、怒ってもないから、高峰も気にしないで」
「ホントに…?」
「うん」
「ならよかった」
ホッと、安心したように高峰が笑った。
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