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 カリアナはここではすでに自由の徒。女主人は案内の手数料を手にするだけで、客が夜を楽しむ権限は彼にある。  踏み出し近寄る足音。カリアナは静かに向き直った。  女の着る薄物の上にローブをしどけなく羽織っていた。ゆっくりとその胸元を合わせながら、目を合わせる。  男の瞳に吸い込まれる錯覚を覚えた。表情をほとんど浮かべないカリアナの頬が堅く強張った。  男の目には、ここへ訪れる誰もが浮かべる、鈍く澱んだ欲望の色が見当たらなかった。 「貴方に頼みがある」  暗く沈んだ褐色の瞳。まるで別人である。これが、敵軍を国境沿いのガラニアにおいて勇猛にして細心の奇襲で討ち果たした立役者の一人。6日ほど前、王宮へと続くラーデン街道をきらびやかに誇らしく、民衆の歓喜の声に若々しい笑みで答えていた武将であろうか。  ガラニア戦での勇名なくとも、将軍家としては名門の一つである。血筋ゆえか二十五歳の若さで精鋭国境守備部隊長の指名を勝ち取ったほどの才気である。その上、慈悲に満ち高潔なる武人としても市井のうちにも噂は高い。  端正な容姿に名家という、宮廷の婦人たちをさんざめかせるには十分であるのに、浮名一つ流れぬ男であった。 (やはり。目的は私ではないわけか……)  落胆したわけでなく、気勢をそがれた形だった。 (この私を前に……)  プライドが、少しくすぐられた。
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