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「それで、私にどうしろと?」  いまだ男は部屋の中央に立ったままである。  カリアナは優雅に、豪勢な天蓋のあるベッドに腰を掛けて足を組み問い掛けた。男の距離を置こうという意図は、ありありと読めていた。 「あなたには、デクトーラ殿に隙を作らせてもらいたい。その上で、出来るなら、彼の剣を隠すなり遠ざけてもらいたい。気付かれぬように」  頼みとは、物騒で卑劣な暗殺の手助けである。  それも相手はこの男の上官という地位にあり、ガラニア戦では共に戦い抜いた英雄である。だが、こちらはもともと血に飢えた死将として名高い男。戦場では我が意を得たりといった奮戦で、その狂気ぶりの想像はたやすい。  国王でさえも手を持て余しながら、家柄も戦場での働きも申し分なく、今や傍若無人余りあるという。 「なぜ、他のやり方を考えない? 毒殺でも、溺死でも、うまくやる方法はいくらでもあるではないか?」  相手は国でも名高い豪剣の持ち主である。正面切って立ち向かっては、いくら若さに勝りいくばくか心得のあるローンダイク将軍でも、勝機は薄いのは確かな読みであった。 「……切り殺す方法をお望みだ。私もそう願っている」 「何があった。理由は?」 「……。デクトーラ殿には姫君が一人おられる」  目を閉じ、絞られた喉から言葉が漏れた。 「知っている。貴殿の許婚であろう。王女よりも幸福な花嫁だと巷の評判だ。貴殿が身堅い人物であるがゆえに」 「5日前までは、そうであっただろう……。だが今は、世にも哀れな人だ」  ローンダイクは眉をギリと引き絞った。 「デクトーラは好色だった。戦地でもどこでも構わずに、男でも女でも隠すことなく。その上、奥方は嫉妬深い方で、凱旋早々激しい諍いがあったらしい。その夜、エリン姫は見兼ねて涙ながらに父親をいさめに尋ねた」  カリアナにその先を想像できた。あえて次の言葉を待った。アレナス・ローンダイクにとっては、吐き出さねばならない苦悩であるはずだ。
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