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「そんな悠長なことしてたら、多分あの森なくなるぞ」
軽い世間話のような言い方で、アレスはとんでも発言をした。
「え……」
「あの巨大樹、相当侵食速度が高いぞ。行って帰って来てる間に森は食い尽くされるだろうし、森にいられなくなった猪どもが村を襲ってバッドエンド」
「それじゃあどうすれば……」
アレスでも無理。イオンの力を借りようにもそんな時間はない。打つ手はないのだろうか。プレメール村が魔物に食い尽くされるたという事実を、城で事後報告として知るしかないのか。
「な、ならばせめて、村に残って攻めて来る魔物達を撃退すれば――!」
「撃退すれば、結局村まで侵食してくる樹木に飲み込まれるな」
「……どうしようもないのか? 私達騎士は、あの村が危機に晒されつつあることを知りながら、助けることはできないのか?」
どうしてこうも自分は無力なのか。その思いが胸中で渦巻き、握り拳を固めさせる。強くなっているつもりでいた。常日頃の訓練で鍛えた力は、決して無意味なものではないと思っていた。必死に剣を磨き、知識を集め、小さな愛国を他国の侵略から、魔物の恐怖から守ることができるよう努力していた。だが結局のところ、肝心な時に国民を護ることはできない。
(どうすればいい? どうすれば護ることができる? どうすれば……!)
焦りに思考を乱されながら考え、ふと気付き横を見る。アレスは正面を向いて騎乗し、悩み事の一つもなさそうな平然とした表情でただ黙っている。かと思えば盛大に口を開けて欠伸をする始末。
アレスが、あの村の人間が滅びるとわかっていて何もしないだろうか? 打つ手無しと判断したならば即座に諦めるような男か?
「アレス……」
「ん?」
「何か、策があるのか? 森の奥の巨大樹に対する策が」
アレスならば、何があっても助けるために尽力し、最後まであきらめないのではないか?
「策ってほどのものでもないけどな」
「何か考えがあるんだな?」
「おう」
「どうするんだ?」
「単純明快で至極簡潔。ピール、お前寒い時は暖炉で暖を取るよな?」
「あ、ああ」
突然の話の変化に戸惑いつつも頷く。
「暖炉の前にいたら暖かいよな」
「ああ」
「でも暖炉の炎よりも、肌に感じてる熱は弱いよな」
「そうだな」
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