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アレスは居住まいを正し、村長にことの経緯を語る。
南の祠、その傍に一匹の魔物がいたこと。その魔物が術刻具を持っており、その術刻具のせいでマナを内包した霧が発生していたこと。その魔物が手強く、ピールであれば楽に勝てたところを、術師ではあるが剣士としては未熟な自分では苦戦してしまったこと――このことはかなり強調しておいた――。辛うじて何とか魔物を倒し、術刻具の機能を破壊したこと。
「調査をする折、傍に馬がいては巻き込まれる可能性がありましたので、先に村の警護に戻っていただいたピール隊長に、僭越ながら馬を連れ戻すことを頼んでおりましたので、戻るのに時間がかかった次第です」
「なるほど、そのようなことが……。しかし何故そのような術刻具がこんな片田舎に」
「これは憶測ですが、海を流れてきたのではないかと」
「大陸周辺を回って来たということですか」
(ん?)
村長の言い方に違和感を覚えながらも、とりあえず納得してくれたらしいので首肯しておく。
「元々ある自然発生の霧についてはどうしようもありませんが、今回の件で起こった異常発生の霧はもうないでしょう。森から出てきていた魔物達も、これまで通り森の餌を取ることができるようになるはずですから、森の奥まで行かなければ問題ないかと」
「何から何までありがとうございます。騎士様、術師様にお任せしてしまい、申し訳ない話です」
「ピール隊長は常々申しております。民を護るのが騎士の務めだと」
「……ありがたいことです」
深々と頭を下げる村長。ピールに下げろよと内心で苦笑しながら、顔では一般受けのしそうな爽やかな笑顔で首を横に振る。
「プレメール村の皆様のおかげで美味しい食事を摂ることができていると考えれば、私達も頭を下げなければならなくなります。かと言って互いに頭を下げ合い続けるのもいかがでしょう。ここは頭をお上げください。それに私は隊長の部下です。謝辞は隊長へしていただきたい」
「まだお若いのに、なんとご立派な……。わかりました、そう致しましょう」
感動のあまり涙を流し始める村長に、さしものアレスも驚きを隠せない。
「なにも泣かなくとも」
嬉しくて流れてしまうものは仕方がないのですよ、と村長は髭に吸い取られていく涙を拭う。
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