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「わかった。今度は逃がさないからな」
「うっ……お手柔らかに頼む」
これはしっかりお小言を聞かされそうだと、自業自得ながらアレスは天を仰いだ。
剣帯を外し、脱衣場で自分の血で汚れてしまった服とコートを脱ぎ、白い剣とその鞘を隅において刻印術の不可視結界を被せてから奥へと進む。ピールはともかく、アレスは当然体が酷く汚れているので先に体を洗い、汚れや血が落ちてさっぱりしてから入浴する。
「あー、疲れが溶け出ていくわあ……」
湯に体を沈めてじじ臭い声を出すアレスにピールが苦笑しながらねぎらいの言葉をかけた。
「今日は本当にご苦労だった。君のおかげで村や近隣を覆っていた霧が晴れて言っているのは明らかだ。ところで、そろそろ何があったのか教えてもらってもいいかな。あの白い剣についてもまだ教えてもらっていないぞ」
村長に語ったものと同じことを、若干言葉を変え簡潔にまとめながら説明する。その途中で違和感を感じたらしく眉を顰めてはいたが、ピールはアレスが話し終えるまで口を閉ざして聞き続け、
「という嘘をついた」
「して、真実は?」
「ピール。あの祠……というか、あの地下への入り口前で話したことを覚えてるか?」
「メアリー殿下とシャールのことだな」
「そのメアリー殿下は実在して、シャールについてはお話、架空の人物扱いになってる」
「信じている者もいるが、証拠がないからそういうことになっている。それこそ子供は信じているだろうが、大半の大人は一人の作家が描いた話だと――」
言葉の途中でピールが喋るのをやめた。
「白騎士シャールが携えていた白い聖剣……。まさかあの剣が?」
「ご名答。聖剣かどうかは別にしといて、あれはシャールが持っていた剣だ。加えて言うと、あの剣が今回の騒動の原因な」
「? すまない、話が見えてこないのだが」
「入口の結界を俺が破った時にマナや殺気が噴出していたのは全部あの剣だ。あの白い剣は戦いを望むらしい。けど剣でしかないあれは動けるはずもないから、そのために使い手、もしくは自分を動かすための身体を欲して、強者を引き寄せるためにマナを振り撒いていたんだそうだ。その影響が霧になり、魔物の騒動になってたってわけ」
水分を蓄えてだんだんと下がって来る黒い前髪が視界を覆い、鬱陶しくなって一気に掻き上げる。
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