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「皮肉なもんだよな。聖剣として伝わってるシャールの剣が、実は持ち主の身体を奪う魔剣だったなんてよ」
「ではシャールは魔剣に操らていたということなのか? それに君も――」
不安げな顔で窺うピール。今の話を聞く限りアレスが剣に体を乗っ取られてしまっていると想定するのは当然だ。恐らく身の危険を感じているのではなくアレスの身を案じているのだろう。
ここで素直に大丈夫と言えばいいのだが、アレスとしては少しばかり悪戯心がくすぐられてしまった。
「ああ、飯を食ったら俺はあの剣で血の雨を降らせてやるよ。それはもう、刻印術で辺りを焼き、手当たり次第に斬りつけてな」
個人的には非常に悪い顔を作ることができたと思った。意図的に作った顔の中でこれほど本気で取り組んだものがないだろう。悪戯にそこまで力を尽くさなくても、と自分のことながら呆れつつピールに凶暴な笑みを向け、
「ぷっ」
何故か笑われた。
「……何がおかしいんだよ」
「いや、どうやら君は剣に乗っ取られたわけではなさそうだから安心したんだ。なるほど、持ち主の心、あるいは身体的な強さによっては剣に操られず、使いこなすことができるというわけか」
「だからなんでそんな判断にだなあ」
「君がいつも通りだからだよ。アシエス殿下が慕い、イオン殿が信頼し、城下の皆が愛するいつもの君と何一つ変わらない」
どうしてこう、ピールはどこまでも真っ直ぐなんだ。そんな感想を覚えながら、ピールが思い通りに勘違いしないことがつまらず眉間に皺を寄せて口元まで湯に沈みブクブクと泡を立てる。しかし拗ねて説明を怠るほどアレスも子供ではない。
あの剣が危険なこと。それを伝説の白騎士シャールが封印していたこと。弱い者の手に渡らぬよう、強者を選別するための試練として地下が危険になっていたこと。相応しい持ち主が剣を手にすれば周囲に影響を与えなくなること。その持ち主が現れるまでシャールが時間を止めた結界の中で何百年も待っていたこと。剣に乗っ取られていないか確認をするために襲って来たシャールを片手間でぶっ飛ばしたこと――これに関しては大袈裟に誇張しておいた――。
ざっくりとではあるがアレスはピールにすべてを話した。
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