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例え話を最初から否定してかかろうとするアレスを先回りして封じるピール。言おうとしたことを遮られたことが悔しいのか若干渋い顔をした。
「どうするったって、相手が俺を好いてくれていたとしても、俺が相手を好きじゃなかったら受け入れるわけにはいかないだろ」
「じゃあ、その相手を君は良く知っていて、かつ一緒にいたいと、いてあげたいと考えていたなら、どうだい?」
「……」
(考えていることがばれたか?)
じとついた目で見てくるアレスの気迫がいつものそれと違い、南の入り口で体感した殺意の波動に近い何かを感知して体が震える。十分に温まっている体が震えるのは寒さではなく、恐怖による悪寒だろう。アレスが殺意を向けている、というよりも単なる威圧感だ。
本気でなくとも体が震えるほどの相手に、よくもまあ平然とこんな問いをできるものだと我ながら呆れ、確かに凄まじい力を持っているが恐怖を覚える対象ではないということもしっかり認識している。
アレスは強者ではあっても敵ではない。
少なくとも、今は。
「はぁ」
アレスはため息を吐いた。
「それでも駄目だ。俺とそういう関係になれば、相手だって不都合なことになる。どう考えたってマイナスが大きすぎるんだ。それに俺だっていつまで――」
失言だったらしく、慌てて言葉を飲み込む。
「そういうわけで答えはノーだ」
「やはり君はいつか刺されそうだ。それも多くの女性に」
「だからそんなことはねえって」
「……たしかに君相手では背後から刺すことすら難しいだろうし、君に好意を寄せる女性達が可愛そうだ。セリアンスロープに素手で勝つ方がよっぽど簡単だろうな」
「人を人外みたいに言いやがって。その女受けしそうな綺麗な顔をぐちゃっと潰しちゃうぞ」
「ははは、君が本気を出すまでもなく私には抵抗する術もない。けど、君にそれはできないよ」
「は?」
意味が分からないという風に眉を顰めるアレス。言っていることがちぐはぐだ。抵抗できないと言いながらアレスにはそれができないというのだから当然ではある。
矛盾に満ち満ちた言い回しに怪訝な顔をしながら、同時にやや不機嫌なそれも表に出す。
「俺がおまえに勝てないと、そう言いたいって?」
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