第五話~白の魔剣~

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 大衆に見せる、黒さなど感じさせない綺麗な笑顔でそう言ってアレスは店主と共にいくつかの皿を持ってテーブルへ移動した。 「ほら、ピール隊長は椅子へどうぞ」  アレスに促されるまま料理の並んだテーブルの前に腰を下ろし、目の前で美味しそうな匂いを撒き散らしている物々を眺める。先日同様、碌々食料の確保もできない中で貴重な食材をふんだんに使われており、塩などで保存の効くよう加工された食材達ではあるが、そのどれもが見事に食欲をそそる。まともに山へ入ることもできなかった今では貴重なはずの、茸や山菜が大量に入ったスープ。海鮮食材が多すぎてメインであるはずのパスタが見えない海鮮パスタ。  そのどちらもが美味しそうなのだが、それらを差し置いて一つの料理に目が吸い寄せられてしまう。 「すみません、これはいったい?」  鮭だ。それはわかる。魚に詳しいわけではないが、オレンジ色の切り身はピールの知る限り鮭のそれ以外では知らない。彼が聞きたいのはその食材の名前ではなく料理の名前だった。若干黄色に色づきこんがりと焼けたそれから魚料理では嗅いだことのない、だが普段から鼻にする匂いがあった。  店主に尋ねると彼女は笑い、アレスへ視線をずらす。 「まさか、これは君が?」 「はい。それはムニエルといって…… って、ピール隊長は料理ってしますか?」 「いや、私は一切しないな。家では侍女達に家事を任せきっている」 「なるほど。であれば説明は不要そうですね。とりあえず食べてみてください」  軽く焦げ跡のある切り身から香る、焦げ臭さがありつつも不思議と食欲をそそられる匂い。店主とアレスに感謝を延べ、フォークを端に刺しナイフで小さく切り分け口へ運ぶ。ピールが無言で咀嚼している間、アレスはおろか観客となっている村人達も固唾を飲んで見守った。 「なんだろうな、これは」  口内のものを飲み込んだピールは静かに言った。 「すまない、私はこういった解説が得意ではないんだ。だがこれは美味しいな。うん、とても気に入った」 「よしっ!」  嬉しそうに握り拳を作るアレス。 「香りで気付いていたが、バターとレモンを使っているのか?」 「はい。他にも塩と胡椒、小麦粉なども。お口に合ったのでしたら何よりです」
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