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ムニエルとやらを調理したアレスも店主に一言断って食事を始める。スープを啜り、店主に美味しいと笑顔で言う彼の表情はとても優しげで、ふとした時に見せる強気で傲慢な笑みは少しも見えない。
(君は本当に面白いな。見ていて飽きることを知らないよ)
「? ピール隊長、私の顔に何か付いていますか?」
ムニエルを食べていた部下がきょとんとして視線を合わせてくるのでピールは首を横に振る。
「何でもない。君は何でもできるなと感心しただけだ」
「何でもじゃありませんよ。剣技や戦闘の指揮、作戦の立案。私ではピール隊長にはとても及びません。先日の戦でも、ピール隊長がいなければ危なかったんですよ」
アレスがこれ見よがしに周りに触れると、村人達はおお、とどよめいた。作戦も剣技もアレスの方がずっと上であり、フィーマとの戦いも彼がいなければ勝つことすらできなかっただろうことを考えれば嫌味にしか思えない。だがアレスがそんなつもりで言っているわけではないことも把握しているつもりのピールは、苦笑いを浮かべて肯定とも否定とも取れる表情をするしかなかった。
アレス自身の功績だと知られれば、先の戦の勝因を他国に知られ、結果として原因不明の勝利とされているはずの真実も公に晒される可能性がある。そうなれば、今でこそ不気味がって手を出そうとしてこない周辺諸国に再び攻め込まれるかもしれない。そうなればピールはもちろん、アレスも全力を賭して国の防衛に努めてくれるに違いない。しかし安全であることに越したことはない。
更に、今は異国人を嫌う風潮が当然となっている。そんな中で国の中枢にモルクル人が立ち、ルミーラ人達を指揮するようなことになれば、多くの国民が反感を持ち、国そのものが瓦解するかもしれない。アレスはそれを考慮した上で、ピールを持ち上げ、あくまで自分は裏方に徹しようとしているのだろう。
そのことがピールやイオン、アシエスにとってどうにも歯がゆいことだとしても。
「そうそう、連日の訓練でも隊長はすごいんです。私はまだ入って間もない新参者ということもありますが、他の熟練した騎士の方々と比肩してもその実力は大きく違いまして――」
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