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目を輝かせて話に聞き入る村人達に、アレスはとても楽しそうに笑顔で喋り続けている。それを傍目に見ながらピールは食事を先に追え、アレスと店主に一言断って店を出た。賑やかな食事処を後にし、村長の家へと向かいながら、霧が晴れて星々が拝めるようになった夜空を見上げてため息を吐く。
「気付いていないのか、アレス。他の血を嫌う風潮があったとしても、それは君にとって何の障害にもなっていないことに。彼らは私の話に夢中になってるんじゃない。君が話す話に夢中になってるんだ」
話題のピールが店を出ても誰も追いかけてこないのは、つまりはそういうことだった。
「あ」
「ん?」
上ばかり向いていたピールの正面から、小さく可愛らしい声が聞こえた。視線を下げると、そこにいたのは小さな女の子。セミロングのツインテールをした少女には見覚えがあった。
「君はリディさん、だったね。どうかしたかな? アレスに用があるなら食堂へ行くといい」
アレスの求心力は並の物ではない。城下の人間同様吸い込まれている村人達。しかもリディは彼の良さを、素晴らしさをこの村に触れて回った第一人者だ、懐いていないはずがない。
ところがリディは一生懸命と表現してもいいほどに首を横に振りまくった。
「い、いえ! アレス様じゃなく、騎士様にお願いがあって来ただ!」
(アレス様、か)
名前で呼んでいるということは、アレスと話をして、アレスがそれを許可したのだろう。アレスが少なからず心を開いているらしいことに喜びを感じつつ、アレスではなくピールへお願いがあるということに小首を傾げた。
「お世話になりました」
翌日の早朝、アレスとピールは馬を従え、村の入り口で村長に頭を下げた。
「それはこちらの言葉です。村を救っていただいた上に、大したお礼もできませんで」
いやいやと首を横に振り、申し訳なさそうにする村長にピールは微笑む。
「大事な国民が苦しんでいれば、騎士がそれを助けるのは当然のことです。もしまた何かありましたら、王都までご一報下さい。必ず馳せ参じますから」
「恐れ多い言葉、ありがとうございます」
「森の件については王都へ戻り、神官や将軍達と会議し、早急に対策致しますので心配なく」
「おお、ありがとうございます。本当に何から何まで……」
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