140人が本棚に入れています
本棚に追加
涙を流し始める村長に慌ててピールが宥め、彼が落ち着いたことを確認してから二人は村を後にした。なかなか来る機会もないだろうプレメール村を、潮風と共に背を向けて二人はゆっくりと馬を歩かせる。
「しっかし、たくさん食い物もらったな。男と二人旅のつまらない中で唯一の癒しだ」
周囲に誰もいなくなった途端に砕けた態度になる部下に苦笑いする。
「君のその二面性は本当に凄いな。私ならばボロが出そうだ」
「俺だって出ただろ。ほら、飯食ってる時に」
「あれはボロとは言わないだろう。むしろ、あのおかげで親しみやすさを感じたと評判だったぞ」
「……なんでこの国の人間はモルクル人に対してそんなに寛容なんだよ」
モルクル人に、というよりもアレスに、なのだが、ここで訂正しても彼は聞かないだろうと判断し口には出さない。
「しかし」
だが、それよりも気になっていたことがある。それはアレスの荷物の上、馬の腰に下がる荷から飛び出した、長い布ぐるみ二つだ。
「刻印術を使ってまで隠していたというのに、村を出る時は布でくるむだけなんだな」
「見られなきゃ問題ないからな。ほら、白い剣って言えば、もうシャールの聖剣だろ? だからその見た目さえ認識されなければ大した問題じゃないんだ」
「なるほどな。では、その腰の壊れた剣はさしずめ、騎士としての飾りか?」
アレスは並んで歩くピールを見て軽く目を見開き、正面に顔を戻して肩を竦めた。
「なんでわかった?」
「鞘から覗く鍔が垂直じゃない。大方、騎士甲冑を斬りつけた時に歪んだにも拘らず、力づくで入れ直したんじゃないか? 騎士の証とも言える鎧もない今、騎士らしさを表す唯一の支給された剣がなければ、おおよそ騎士と証明するものがないからな」
「ご名答。流石は百人隊長殿、その洞察力には恐れ入るよ」
「ルミーラ王国の救世主に恐れられるとは光栄痛み入る。……君とこんな話をしているのも好きだが、兎も角今は王都へ急ごう」
「ん? なんで」
「なんでって……」
よもやアレスからそんな言葉が出て来るとは思っていなかったピールは唖然とする。森に巣食う巨大樹の魔物。その危険性は直接対峙し、アレスですら倒せないと判断したほど巨大で強力なものだ。早急に城へ戻り、刻印術のスペシャリストであるイオンを連れて来るべきだろう。
最初のコメントを投稿しよう!