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「お前が暖炉の前で浴びる暖かさは、本体である炎から漏れ出たカスみたいなものだな」
「そう捉えることもできると思う」
「あの魔物の肥大化の原因は?」
「シャールの聖剣、いや、魔剣だったか?」
この辺りでアレスの言いたいことがわかって来た。
「大元の力に、漏れ出たカスが勝る道理はないよな?」
「待てアレス。君はまさか……」
唖然とするピールに、アレスはニヤリと笑う。傲岸不遜なそれは、彼が勝利を確信させる合図となっていた。
「おじいさんは山へ柴刈りに。柴って言うには今回はちょっとでかいけどな」
「何故そこでおじいさんが出て来るのかはわからないが、正気か? 君の刻印術ですら対処できないほど強力な魔物なんだろう?」
「んー、正確には制御しづらくて、だ。消し炭にしようと思えば俺でもできる。けどそうなると周りの森まで燃やしかねないからできないってこと。んでさっきも言ったが、結局巨大樹の魔物化……いや、魔物の巨大化か? まあどっちでもいい、それはこの」
荷物に刺さっている布ぐるみをアレスの手が無造作に叩く。
「魔剣様の漏れ出たマナの影響だ。てことは元凶である魔剣がそれに負ける通りはねえだろ?」
「理屈としては筋が通っていそうだが、それはあくまで聖剣が内包するマナの問題だろう。その剣で直接大樹を斬るのは無理がある」
「おいおい、その樹木相手に素手で打ち合った俺に何を言う?」
「素手って……そうか、君は森に行った時は剣を置いて行っていたな。いや、高さ百マータもある樹木を相手に素手だと!?」
驚いたかと思えば落ち着き、次の瞬間には取り乱すピール。表情は不敵なそれのままで、アレスは内心、
(おー、ピール百面相おもしれー)
と気楽なものだった。
「セリアンスロープよりかは手強そうだった。尤も、俺が相手取ったあいつは、セリアンスロープの中じゃあ弱いらしいし、他のと戦ったことがないから比較はできないけどよ」
「そんなものを相手に剣一つで戦う気なのか、君は」
「ただの剣じゃねえよ。俺が振りまわしても少しも歪まない、頑丈な剣だぜ。俺の心配をする暇があるなら樹の心配でもしてやれ。もう寿命が幾許もねえんだから」
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