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「君の話を聞いた限りでは、魔物達は相当飢えているのだろう? すぐに襲い掛かってくるものとばかり思っていたが」
魔物も動物も、一匹として二人の前に姿を見せない。安全であることに越したことはないが、ここまで来るとむしろ不気味ささえ感じてしまう。
ふと足元に落ちている落ちている青い林檎を手に取る。アレスに聞いていた通り、色以外は何も不自然さはない。そして林檎独特の爽やかな香りはしなかった。時間が経過すればマナの霧によって変質した植物達も元に戻り、やがてこの果実も本来の見た目と香りを取り戻すはずだ。だが今は戻っていない。そして戻っていない以上、魔物達は食糧に困っているはず。ならば人間がいるとなれば即座に襲ってきてもいいはずだ。
青い林檎を握り締め、周囲を警戒しながらアレスの後ろを歩くピールの疑問の声に、アレスが何とも言えない間延びした声を出した。
「どうした?」
「いや、たぶんそれ、俺のせい」
「? どういうことだ?」
顔を横にして視線をピールに向け、苦笑いしつつ答える。
「だから、魔物が襲ってこない理由」
「尚のこと理由がわからないのだが……」
「ほら、前にピールが俺を迎えに森の入り口まで来てくれたことあったろ? あの時でかい音がしたって」
「ああ、言った」
「あの時、魔物を軽く潰してたんだけど、そのせいで危険な存在と認識されたみたいで……」
「つまり、君の傍にいれば襲われる心配はないと?」
「端的に言えばな。魔物に恐怖や知性があることに驚いたぜ」
「私からすれば、魔物に恐怖を抱かせる君の方に……いや、驚かないな。今更だ」
人を化物みたいに、と苦い顔になるアレスに微笑む。
「君は私の友人だ。だが君の強さが化物染みていることは理解しているつもりだよ。セリアンスロープを素手で打倒し、それすら超えると判断した魔物を倒そうとしているんだ。何より君の強さの一端をこの目で見ている。私は自分の目で見たことを疑わないからな。君は私が知る限り最強の存在だ」
「……自称する分にはいいけどお前に言われるとむず痒い。茶化してるわけでもないのが余計に質悪いぞ」
「謝る気はないぞ、嘘を言っているつもりはないからな」
「へいへい。隊長様はご立派ですね……っと」
不意にアレスが足を止め、横に腕を伸ばして制止をかけた。
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