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質量と速度はそれだけで武器になる。数マータもの直径を持つ根だ、一撃で体は分断されてしまうことだろう。
そしてそのことごとくをアレスは白い残像を残して叩き斬って見せた。どう見ても長さの足りない白剣は見事に根を断ち切り、確実にその一本一本を無力化させる。
数歩前へ進む度に新手がアレスを捕食しようと飛来するも、アレスを中心とした不可視の結界があるかの如く、一定距離より近づこうとした根が分断され、いくつもの地鳴りを残して大地へと落ちていく。元々自分の腕であったはずのそれらも食糧と見なす巨大樹の魔物はアレスに向けていない根を断たれた根の回収に使い、幹の中央に開けられた大きな空洞に放り込んでいく。
「俺の目の黒いうちは、何人たりともこの国は穢させねえ。魔物だろうが異国人だろうが、ルミーラ人だろうがな。いいか木偶の坊、よく聞け。耳がなかろうが聞きやがれ」
無茶にも程があることを巨大樹に語り掛けながら、アレスはゆっくりと距離を縮めていく。依然として襲い来る無数の根はそのどれもが短い剣に断ち切られ、蠢いていた根はどこか困惑したように引き返していく。巨大樹の本能なのか、根による捕食が不可能と判断したのか天高く聳える樹上で葉々がわさわさとざわつき、枝々がしなりを見せる。そして勢いよく振られた光る果実がアレス目掛けて飛ばされた。
「俺は自分にとって都合の悪いことが大嫌いだ。ガキのただのわがままと同じ、自分の思い通りにならないことが嫌いで嫌いで仕方がない」
二マータを越える巨大な実がドスンドスンと周囲に落下する中で、アレスは樹木の空洞を睨み上げながら憤然として歩き続ける。
「そんでお前の存在自体が俺にとって不都合この上ないんだよ。おまえがこうなっちまった原因が俺の剣だろうが関係ない。俺はわがままだからな、原因なんざ知ったこっちゃねえ」
降り注ぐ光の弾丸。そのうちの一つがようやくアレスに向かって飛来する。
「腹いっぱい食いたいならてめえの身体でも食ってやがれ。俺の住む、俺が世話になったこの国に迷惑かけてんじゃねえ」
体を横に向け、両手で魔剣を握り締める。そして、飛んで来た体よりも大きな実に剣の腹を思い切り叩きつけた。叩きつけられた圧力で実はひび割れ、剣の形に凹みを残し、重力など知らないとでも言わんばかりに撃ち出した主へと帰っていく。
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