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「最後の飯だ、かっ喰らっとけ!」
ズドン、と衝撃を周囲に響かせ空洞に飛び込んだ光り輝く果実は内壁で爆散し、ビチャビチャと汚らしい音を口から漏らす。そしてその実を打ち返すと同時にアレスは土がむき出しになった巨大なサークルを走り出していた。
直進するその勢いは正しく矢のようで、瞬時に加速したその体に降り注ぐ巨大な光の塊はなかなか当たらない。幾つか彼の進路に落下し、結果として妨害が成功したかに思うも振り切られた魔剣によって実は真っ二つに裂け、左右へと倒れ中央に道を作り、彼の走りは僅かにすら衰えない。
地面から感じる振動で獲物が近づいていることがわかるのか、巨大樹は実を降らせながら根も一斉に動かし始める。本体に近いだけあって蠢くその手はどれも太い。最早通常の樹木の幹が枝にすら思えない程厚い腕が幾重にも立ち塞がり、重厚な壁としてアレスの前に立ち塞がる。生命としての生存本能が働いているのか、捕食本能を撒き散らしながらも防衛に回る姿は滑稽とすら思えるが、今のアレスにはそんなことを微塵も脅威を抱かせない。攻撃も捕食も全ての行動を中止し防御のために本体の前で重ねられた根を睨み、遮られて見えなくなった巨大樹を見えずとも睨みつけながらぶつかる直前で左足でブレーキをかけて地面を滑る。
盛大に土埃を巻き揚げながら壁に向かい、アレスは地面の凹凸と目まぐるしく変化する摩擦に身体を激しく震わせながら、それでも剣を腰溜めに構えて正面に迫る壁を見つめる。身体の内で荒れ狂う怒りをマナに乗せ、剣にその力を注いでいく。暴れることを望み、力を振るう機会を求めていた剣はその暴力の塊に歓喜して剣身を青白く発光させ、その身に濃い霧を纏わせる。
こうして戦うためにこの剣を握るのは白騎士と命のやり取りをして以来だが、不思議と扱い方はわかる。剣自身が戦いを望み、そのために必要な方法を主に教えているのかもしれない。
(いいさ、どうせ俺はこの国のために剣を振るうんだ。お前が望む血みどろの舞台にいくらでも立つことになる。だから、お前は俺のために存分に命を奪え)
身体が導くままに剣を構え、マナとマナ以外の力が全身に、剣に充足すると同時に壁の直前まで来た瞬間、アレスは右足で地面を蹴り、溜めていた腰を捻り、全力で左腕を振り切った。
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