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「何笑ってやがる。その綺麗な顔を人様に見せられなくすんぞコラ」
「君がこの程度で私に剣を振れないことは知っているよ。それに、ありがとう」
「?」
ピールが何を嬉しそうにしているのかわからず、不気味がりながら剣を引く。
「親友だと信じてくれるいい奴と言っていたね」
「ぶっ」
「自惚れてもいいのだろうか?」
「……勝手にしろ!」
顔を赤くして足早に進んで行くアレスの背を見ながら、ピールは嬉しそうに目を閉じる。もうアレスはピールの仲間であり、少なくともこれまでは一方的だった信頼と友情が相互のものとなっていた。そのことが嬉しく、鎧をガシャガシャと鳴らして駆け寄るとその背中を軽く叩いた。
「いてっ。なんだよいきなり」
「何でもない。さあ帰ろう。殿下もイオン殿も、町の皆も君の帰りを待っているよ」
「別に待たなくていいんだがなあ……」
「まあそう言うな。君は向けられる好意を認めようとしないが、それでもさっきの発言で気づいていないわけじゃないことはわかっているんだから」
「うっせえ。んなことよりお前は一回村に戻れ」
不安や魔物達に対する無意識下の恐怖を抱いていたせいで、行きは時間の感覚がおかしくなっていたのかもしれない。帰りは森の奥へ向かう時に比べるとあっという間で、馬達の下へ戻ると悪態をつきながらアレスはそんなことを言う。
「村へ?」
「さっき木を斬った時に地鳴り凄かったろ。森の魔物について怖がってるのにあの地鳴りだ、村の方でも何があったのかわからず怯えてるかもしれん」
「それは確かにそうだな……。だが君はどうする?」
「俺はちょっと行く場所があるんだ。あ、言っておくが、村の連中に俺がどうとか言わんでいいからな!」
「わかったわかった」
(絶対わかってないだろコイツ……)
村でまたあることないこと――正確にはアレスにとって吹聴されると困ってしまう事実だが――を言いふらすんだろうなコイツはと苦々しく思いながらもピールを村に行かせるという提案を変えはしない。
「私も一度村に戻っておきたい都合もあったし、ちょうどよかったよ」
「? なんだよ用事って」
「君に関係なくはない、というよりも、大いに関係あることなんだが、んー……」
「嫌な予感しかしないわけだが」
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