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ピールはしばし考え込むが、
「いや、話さないでおこう。近い未来……と言えるかはわからないが、将来で私がどうして村に戻る用事があったのか、わかるだろうからね」
「俺の将来をお前に掴まれてんのか俺は」
「ああ。君がもしその将来の時、この国に生きていなければ、私はある人物の信頼を裏切ることになる。そんなことはさせないでくれよ?」
どこかへ行くことも死ぬことも赦さないという宣言に、アレスはいつものように肩を竦めて見せる。
「ほら行った行った。村からの道なりになってるところで待っておくから」
「そうだな、城へ帰るのが遅れれば、それだけ王女殿下の機嫌を損ねることになってしまう。ハッ!」
馬を駆けあっという間に走り去っていくピールの背中を見送る。今はもう霧はどこにも見当たらず、小さくなっていく背中をどこまでも見届けられそうだったが、アレスの方もさして時間がない。ピールが戻ってくるまでに終わらせなければならない仕事がある。
「俺達も行くか。城に帰るまでよろしく頼むぜ」
馬の首を軽く擦り、荷物に布包みの魔剣を差し込んで背中に跨り、ピールとは反対側へ走り出す。景気よく駆ける馬に感謝しつつ目を閉じ、十分ほど走り続けてから馬を止めた。城下町へ帰る道の途中だが、まだ森はすぐ傍にありプレメール村からもそう遠くはない。振り返れば村の影がわずかだが見える程度だ。目を細め、遠くなったおかげでピールの姿がまともに視認できないほど小さくなっていることを確認して馬から飛び降り、そこで暫く待ってもらうことにしてから森へ歩を進める。最寄りの木まで数マータといったところでアレスは立ち止まった。近くには魔物の気配も動物の気配もない。
だが、人の気配はある。
「おーい、隠れても無駄だから出て来いよ。木の上で隠れてる五人」
僅かだがガサリと樹上で木の葉が擦れる。風によるものではないが、それ以外に特別動きはなかった。
「ピール隊長と俺が揃うまで隠れてるつもりか? それならそれでさっさと城下に帰っちまうぞ。お前らが任務履行できなくても俺は全然かまわないわけだが、大本命である俺くらいは始末しておいたほうがいいんじゃないか?」
十秒ほどして再び樹上でガサリと音が鳴る。直後、風切り音を伴って矢が一本アレス目掛けて飛来した。
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