第五話~白の魔剣~

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 一般的な鋼鉄の剣にマナチャージし振ることで斬撃力そのものの向上は可能だろうが、そこまでだ。アレスのような膨大なマナを保有する者と、それに耐えられる強力な魔剣の組み合わせだからこその成果だったと言える。 (俺が人間としての過去を追い求めれば追い求めるほど、どんどん人間から離れて行く……皮肉でしかねえよ)  自嘲気味に口元を歪めて目を閉じる。瞼越しに感じる陽光は不快な赤色をしている。人を斬った時に流す生命と同じ色だ。 (敵の大将やその周りを斬った時に思うところはあっても吐き気を催すほどじゃなかったのは、やっぱり人を殺すことに慣れているから、だろうな。あんないい子の近くに俺みたいな人殺し紛いがいていいのか……?)  騎士として、国を護るために剣を取っていたという保証もない。これだけ絶大な力に溺れて私利私欲のために他者に暴力を振るっていた可能性だって大いにある。いつか慕ってくれている者達に迷惑をかけることになるのではないだろうか。 (……駄目だ、さっきからネガティブになってやがる。お前のせいじゃないだろうな)  馬の荷に差し込んだ、布に包まれた物を半眼で睨みつける。一枚の布きれに隔たれた刃が応えることはない。  腕を天に伸ばし、人差し指を伸ばすと、そこから光弾を空に放った。か細い音を立てて上昇したそれは途中で小さな爆発を起こし周囲を強く照らしつける。  暫くすると遠くから馬の足音が聞こえてきた。 「よっと」  掛け声とともに体を跳ね上げ立ち上がり、足音がする方角に目を向ければ、ルミーラ王国の騎士の象徴である白い鎧を纏った男を乗せて、一頭の馬が走って来ていた。  ピールは近くまで寄って馬を止めて口を開く。 「空に光が見えたから君だとすぐに分かったよ。ここは広いから合流するのも少し手間取っていたかもしれないからな」 「いえいえ、ピール隊長に報告の任を任せてしまった以上、これくらいのことはしなければ」 「……。と言いつつ、のんびり寛いでいたようにも見えたが?」 「申し訳ありません。情けなくも落馬してしまい背中を強打したもので」 「それは痛い。背中は大丈夫なのか?」 「はい。刻印術ですぐに。それでは城へ戻りましょう」 「ああ」  ピールの首肯を確認してアレスは馬に飛び乗り、二頭隣合ってゆっくりと町へと歩を進める。
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