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「村の人達が感謝していたよ。涙を流しながら君にお礼がしたいと言っていた」
「俺……私の話をしたのですか」
「勿論虚言は吐いていないさ。私が見た、私の認識の通りに話しただけだよ。無数の根による攻撃を掻い潜り、人よりも大きな弾丸をものともせず、一太刀で百マータを優に超える巨木の魔物を屠った、とね」
誇大表現せずとも凄そうに聞こえるから反論のしようがない。
「森の魔物はしっかり退治した。そう伝えて下さればいいものを……」
「そう言うな。自分達が生活している傍であったことの真実を知りたいと思うのは当然のことなんだから。ああ、そうだ。一つ面白い話がある」
「と言いますと?」
「うん、まだ詳しくは語れない」
「何ですかそれは」
渋い顔になるアレスを見て、ピールは肩を揺すって笑った。
「今はまだ、というだけのことだよ。まったく、君は本当に質が悪い」
「一人楽しそうに笑ってらっしゃるところに水を差して申し訳ありませんが、明らかにその笑いの原因が私である以上不愉快極まりないのですが」
「いやすまない。だがこれだけは言える。君の身近な二人には申し訳ないが、十年後が非常に楽しみだ」
「はあ……?」
まるで笑いの種がわからないアレスは生返事を返すしかなかった。
二人は途中何度か馬を休ませつつ行進し、剣術や戦に置いての陣形の展開、奇策などについて語り合い、やがて日が後方の森の先へ沈んでいく時間となった。ピールがここまでだと判断し、火を焚いて野宿の準備をしながら、村で貰った魚を火にかける。町で食べられる魚の多くは加工されているが、一日分ならばと生魚をもらっていた。川の魚とは違う海の焼き魚を食べられる。
「見ろよピール! めちゃくちゃ脂垂れてんぞ!」
そこには子供のように盛り上がるアレスがいた。
「アレス」
「ん? なんだ? お前の分はあるんだから俺の魚はやんねーぞ」
絶対に譲らないと言わんばかりに睨みつけるアレスの眼光は、戦の時に見せたそれよりも鋭い。海魚はアシエス殿下よりも死守せねばならないものなのだろうかと苦笑するが、百人隊長はすぐに表情を引き締めた。
「今日私に村へ報告に行かせている間に何があった?」
「は?」
「とぼけるな。君が何の理由もなく私を一人で村に行かせることもないだろう」
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