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「お待ちなさい」
凛とした声が響く。舞いあがる黒い闇が全ての動きを止まらせる。
「……様」
兵士達は憑き物が落ちたかのように風にはためく黒い闇を、長い二対の黒髪を見つめた。
「お兄様に手出しはさせません」
刹那の輝きとともに全ての希望も絶望も打ち砕いた【緑の閃光】とは対照的な静かな剣。優雅な一振りが閃光と呼ばれた男の剣を流す。
「おっと」
男は剣が流されて体勢を崩しかけた瞬間、初めて浮かべていた笑みに変化を見せた。先ほどよりも甲殻が上がり口の端に深い皺がより、笑みが深みを増していく。
受け応えの無い感触、迎え撃った剣が滑り流されていた。
流れた後の二撃目を警戒して男は後ろに飛びのいた。判断が正しさは次の攻撃が証明した。二撃目はその通り『二撃』あった。一瞬で三度の攻撃を可能とする手首の柔軟な返し、素早い剣の動きに閃光と呼ばれた男の胸は高鳴る。
鼓動は濁流の流れより早く、地下のマグマよりも熱く男の胸を焦がした。
男が轟音を立てて切り裂く雷鳴に準えて閃光と呼ばれるのなら、目の前に現れた女は疾風の二文字がふさわしい。
「【黒の……疾風】」
男は歯を噛みしめたまま、口元が裂けんばかりに笑みを浮かべた。
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