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(まさか…!)
先程の門のことが頭をよぎる。勝手に開閉する門、普段から占いをする仕事。
パソコン作業は副業。ならば、「本業」がある。
「あの、清澄さん」
静香は清澄のほうを振り返ると、確信を持ちながら訊ねた。
「本業って……」
「ああ」
清澄は静香の脇をすり抜けて式盤を持ち上げると、こう答えた。
「術師だ。陰陽道を専門としている」
「――騰蛇(とうだ)、朱雀、六合(りくごう)、勾陣(こうちん)、青龍、貴人(きじん)、天后、大陰(たいいん)、玄武、太裳(たいじょう)白虎、天空…で、十二神将(じゅうにしんしょう)ですよね」
式盤の半球を見ながら、そこに名前が記された神将を答えてみせると、清澄は「よく知っていたな。正しくは十二天将(じゅうにてんしょう)だが」などと言いながら式盤の説明を続けてくれる。
「気付いているとは思うが、これは北斗だ。何故北斗がだが、それは占術(せんじゅつ)の六壬神課(りくじんしんか)が、北辰(ほくしん)を中心とする星や星座が…」
静香は、難しい用語を中学生の頭で必死に捌(さば)きながら話を聴いていた。
(まさか本物の陰陽道家さんだったなんて…)
そう言われれば、全て納得がいく。門には式神(しきがみ)が居て、それが門番をしているのだ。一瞬感じた違和感は式(しき)の気配。清澄は仕事上、狩衣を制服として着ているのだろう。
「……起源であり、これが陰陽五行説に当てはまる」
静香は目をきらきらさせて盤の北斗七星を見つめる。
すごい、と感動する静香。清澄も「理解している」と確認できたのだろう。軽く頷くと、懐(ふところ)から白と黒の勾玉(まがたま)模様――太極図の懐中時計(かいちゅうどけい)を取り出した。
「今日はここまでだ」
「えっ」
時計を見せられて「うわぁ、もう4時半か…」と前髪を片手で掴む静香。
「せっかく楽しい時間だったのに…」
「楽しい…?」
顎に手を当てる清澄。
「はい。好きなことを、わかりやすく教えていただけたんですから」
静香はにこりと笑ってみせる。
清澄は「わからない…」と言って頭(かぶり)を振ると、静香に視線を戻した。
「娘、玖珂静香といったな」
静香が居住まいを正す。
「はい」
「またここに来い」
「…?」
静香は目を丸くした。清澄は続ける。
「聞きたいことはまだあるだろう。暇になったら、また来い」
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