満月

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(こ、これってパソコン!?狩衣着てるけど、中身は現代人だ…!)  しかも1級となると、ベテランサラリーマンレベルなのではないだろうか。…なんというギャップだ。 「…パソコン、お出来になるんですね…」 「副業で使うからな」  淡々と応えて、彼は静香の手元に目をとめた。 「…それは…」 「あ、これですか?」  静香は表紙を彼に向ける。 「心霊館の暦です。私、陰陽師さんが大好きで。八卦(はっけ)とか真言(しんごん)とか、かっこいいなって思って…」  彼がぴくっと反応した。   「…陰陽師……陰陽道に興味があるのか?」  淡々とした声音に真剣さが滲む。  「え……?」  彼がいきなり品定めするような目になったので、戸惑う静香。思わず1歩後ずさる。 (もしかして、私まずいこと言っちゃった!?) 「あ、あの」 「陰陽道のことを知りたいと、そういうことか?」  心の中のすべてを見透かすような目で、じっと見つめられて、目をそらすことができない。 「は、はい…」  素直に頷くと、彼は元の無表情に戻って1歩下がり、あごに手を当てて静香の全体を眺めはじめた。  いったい、何なのだろうか。 「…おい、娘」 (む、娘!?) 「はいっ」  静香が返事をすると、彼は問題集を棚に戻しながら言った。 「時間はあるか」 「へ?」  静香がかくんと首を傾ける。  彼は視線を静香に戻すと、こんなことを言った。 「私の邸に来い。基礎から教えてやろう」  ――なんと。 「いいんですか!?」  彼がこくりと頷いてから、静香ははっとした。あの時はかばってくれたが、このひとが本当に大丈夫だという保障はない。しかし、 (どうせ帰っても、塾さぼったことでどーのこーのとうるさいだけだしなぁ)  それが、彼女の背中を押した。 「じゃあ、お願いします。あ、私は玖珂静香っていいます。貴方は?」  静香が自己紹介すると、彼も目を伏せながら名乗ってくれた。 「………安倍清澄(あべのきよすみ)」    
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