1人が本棚に入れています
本棚に追加
「岡くん、ちょっといいかい?」
呼ばれた。
「なんすか?てっさん」
中途半端に伸びた無精髭をジョリジョリ撫でながら、俺を呼んだのは川上鉄さん。
部署の長。お偉いさん、だ。
みんな、親しみを込めて「てっさん」と呼ぶ。
多分、この文章の中では今回限りで出番はない。
とにかく、偉い人に呼ばれて身構えてしまった。
もう、心の中ではビクビクだ。
なんだ?もう俺には余裕なんてないぞ?これ以上仕事を増やされたら泣いて鳴いて哭いてやるからな。この部署全体を阿鼻叫喚の図にして恥ずかしい思いをして、辱めを受けたって理由をつけて引きこもってやる。
「増員だ。お前の下に1人つけてやるから、一緒に仕事をしろ」
なんと。
俺の祈りが天に届いたとでも言うのか。
神か、あんたは。
いや、待て。
落ち着け。
今までも増員はあった。
だが、あまりにも使えなくて契約を切ったことを忘れてはいけない。
あのような、俺より歳上なのに、お客さんの前では一言も喋れず、二人きりになった途端に根拠のない言い訳をグダグダとクダ巻いていた、あのような男かも知れない。
「木田です。宜しくお願いします。」
ふん、大体人間なんてのは見てみれば仕事ができるかどうか一発で分かる。
どれ。
ん?
えっと。
「日本人ですか?」
しまった!
口に出してしまった!
「ぶははっ」
何笑ってんだ、コノヤロウ。
「いきなり失礼な冗談言いますねー。ずん…純血の日本人ですよっ」
噛んでるし。
しかも気持ち悪いくらいに嬉しそうだ。
冗談を言ってくれるような相手なのが嬉しいのだろうか?
だが、冗談のつもりではない。
無駄に彫りが深くて、浅黒い、どう考えても東南アジア辺りの顔立ちだ。
いや、中東辺りか…。
年は30くらいだろうか。
若くも取れるし思いっきり老けても見える。
まさか、俺より年長ということは無いだろうが。
待て、そんなことはどうでもいい。
肝心なのは仕事が出来るのかどうか、ということだが、イマイチ読めん。
最初のコメントを投稿しよう!