伝える力について

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今朝ですね、まさに今朝の話なんですがね。 まぁ、ちょっと聞いて下さいよ。 いや、特に面白い話じゃないんだけどさ。 朝起きて寝ぼけ眼で目をゴリゴリ擦ってたら、あることを尋ねられましてね。 何を尋ねられたかって、まぁ、大したことでは全然なくて。 「「やわらかい」ってどう書くっけ?」 とかなんとか、よく分からない問いを投げかけられた訳ですよ。 そこで、あっしはピーンときたね。 あ、この子は漢字をどう書くか聞いてるんだな、てね。 え?誰でも気がつくって? 馬鹿言っちゃあいけませんよ。 何の前触れもなく、寝惚けた頭で唐突に訊かれると一体全体何言ってんだい?と言いたくもなるってもんだって。 え?お前だけだって? そんなこたぁ、ございません。 今度、家族でも恋人でも誰にでもいいから、言ってみるがいいですわ。 寝起きの人に「なんで戦争は無くならないの?」って。 今朝の俺みたいに素っ頓狂な顔をすること請け合いです。 んでだ。 話がずれてきたけれども、そして、気持ち悪いエセ落語家みたいになってたけれども。 「やわらかい」をどう書くか。 これ、言葉で伝えられる人っています? いやね、そりゃあ、携帯とかでポチポチっと打って変換して、したり顔で「コレヤワラカイ」って言うことは出来るかもしれんけどさ。 それはしたくない気分だったのね。 無駄なことなんてしない、合理的かつ現代的な俺にしては珍しく。 そんで、まずは全力で1秒くらい考えて言ってやりましたさ。 「やわらちゃんのやわらだよ!」って。 そしたらまぁ、見たこともないような。 いや、しょっちゅう見てるけど。 このドサンピンは何言ってんだ。 みたいな、歪みきった、若干口は笑ってるけど目は笑ってない顔をされた訳ですよ。 そうなるともう、ぜってえ、その鼻あかしてやる。 もう鼻の穴が閉じなくなるくらいあかしてやる、って思うじゃない。 普通鼻の穴って閉じないけど。 とにかく頑張りましたよ。 「上に「ま」があって、下に「き」があるアレだよ!」 「なんか、「ほこ」みたいな字が入ってるアレだよ!」 「「ほこ」っていうと固そうだけど本当はやわらかい、そんな「やわらかい」って字だよ!」 みたいなね。 … … … うわぁ、鼻の穴ひろげてらっしゃる。 ついでに、眉間に皺も寄ってらっしゃる。
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