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その力強い腕が、低めの体温が、彼の全てが。 私のモノにならないだろうかと、考えてはいけないだろうか。 ……いけない。 私は彼にとって唯一の家族で、それは私にとっても同じだ。 そんな彼に、家族以上のことを望んではならないのだ。 これから私は、さっきのことなんて何でもないことだ、という体を装わなければいけない。 「(……さっきのは家族の愛情表現、呉さんの仕事の手伝い……)」 自分に暗示をかけるように何度も心の中で呟き、呉さんと私のマグカップを持って台所へ向かう。 シンクへマグカップを置くところまでは、ちゃんと暗示をかけられた。 でも。 「(……家族の愛じゃ、もう嫌だ……)」 マグカップを置いた瞬間、堪え切れなかった。 呉さんから隠れるようにしゃがみ込み、さっきまで呉さんの温もりに包まれていた身体を、自分でかき抱く。 与えられた温もりを、逃がしたくなかった。
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