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「そ、そっか。あそこのバームクーヘン美味しいもんね」
動揺が伝わらないように、声が震えないように。
お腹に力を入れてわざと明るい調子でそう言って、私は逃げるように台所に駆け込んだ。
どうしよう、どうしよう。
明らかにさっきの話題の転換はおかしかった、不自然だった。
でも。
なんだかあのまま聞いていたら、呉さんと名倉さんの関係が明確なものになってしまうような気がして。
咄嗟に呉さんの言葉を遮ってしまった。
さっきの私を、呉さんはどう思っただろうか。
呉さんが私のことを不審に思ったかどうか。
それも気になったけど、それよりも呉さんと名倉さんの関係がわかってしまうのが怖くて。
しばらくして台所に入って来た呉さんの顔を、私はなかなか見ることが出来なかった。
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