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ふいに、凛とした声が頭上から降って来る。
反射的に振り返りつつ見上げれば、呉さんが無表情で横目に私を見下ろしていた。
「……ッ」
何、その、瞳。
怒りとも悲しみとも取れない、青い炎が燃えるような瞳。
従わざるをえないような、瞳。
その瞳に心臓を射抜かれ、私は一瞬身動きが取れなかった。
「そ、そうだね。来週締め切りのレポートもあるし」
あからさまに不自然だけど、さも急がなければならないようなものを思い出したフリをする。
「じゃあそういうことで林くん、お疲れ」
「……あぁ、うん。お疲れ」
話題を途中で切り上げられ、若干不満そうな様子を見せていた林くんだが、しぶしぶといった様子で自転車のペダルに足を乗せると、軽快な動作で帰って行った。
「……呉さん?」
林くんが暗闇に消えるのを見送った後、あれっきりまた黙ってしまった呉さんに、恐る恐る私は声をかけた。
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