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「……」
そんな私を無言で、目だけで見下ろすと呉さんは「……帰ろ」と言って、私の手を取った。
「く、呉さん!?」
恋人つなぎのように指を絡められ、私の顔は急に熱を帯びる。
周りに人影は見当たらないのに、誰かに見られているような恥ずかしさが込み上げる。
それと同時に込み上げる、甘酸っぱい気持ち。
ダメ、出て来るな。
「ダメだよ、呉さん……!」
自分にも言い聞かせるように、赤い顔を隠す様に、俯いてギュッと目をつぶって懇願する。
どうしよう、何でか知らないけど、泣きそうだ。
「……どうしても」
何秒か黙った後、呉さんが口を開いた。
「……どうしても、ダメ?」
「……ッ」
そんな聞き方、ズルい。
切なそうに、泣きそうに、何かを堪える様な表情で呉さんに見下ろされたら、断れるはずがない。
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