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「――じゃあそろそろおいとましますね」
グラスに入った麦茶を飲み干し、名倉さんは傍らに置いていた鞄を手に取って立ち上がる。
「何か困ったことがあったら、いつでも連絡してくださいね?今月は遠出する取材はないので」
「ありがとうございます」
名倉さんを見送ろうと玄関へ向かう呉さんについて、私も玄関に向かう。
「それじゃあ、美音ちゃんも学校頑張ってね」
「あ、はい。ケーキ、ありがとうございました」
「いーのよ。紫呉さんと2人で食べてね」
ニコッと白い歯を見せて微笑まれ、慌てて頭を下げる。
……本当に、名倉さんはいい人だ。
こうやっていつまでも私たちに気を遣ってくれる。
だからこそ、呉さんが取られてしまうんじゃないかと、気が気ではないんだけど。
ドアの方を向いた名倉さんの背中を見つめ、またしてもモヤッとした気持ちになっていた、その時だった。
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