-8-

5/14
前へ
/602ページ
次へ
「呉さ……ん?」 ボーッと呆けている呉さんに声を掛けると、我に返ったのか、呉さんの肩が小さく跳ねた。 「あ……」 こちらを少しだけ振り返って、だけど掛ける言葉が見当たらなかった様子で、すぐに口を閉ざす。 その表情は未だに混乱が抜けきっていない、といった感じだ。 このままでは話が進みそうにないので、私から声を掛けた。 「呉さん……お見合いする、の?」 思っていたより声が震えて、か細くなってしまった。 「詩織さんって……誰なの?」 「美音……」 質問を重ねる度に、呉さんの顔が切なそうに、苦しげに歪む。 呉さんが私の方へ歩み寄り、包み込むように抱き締められた。 「ごめん、ごめんな……美音」 耳元で囁かれる声と言葉に、胸が締め付けられる。
/602ページ

最初のコメントを投稿しよう!

203人が本棚に入れています
本棚に追加