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「呉さ……ん?」
ボーッと呆けている呉さんに声を掛けると、我に返ったのか、呉さんの肩が小さく跳ねた。
「あ……」
こちらを少しだけ振り返って、だけど掛ける言葉が見当たらなかった様子で、すぐに口を閉ざす。
その表情は未だに混乱が抜けきっていない、といった感じだ。
このままでは話が進みそうにないので、私から声を掛けた。
「呉さん……お見合いする、の?」
思っていたより声が震えて、か細くなってしまった。
「詩織さんって……誰なの?」
「美音……」
質問を重ねる度に、呉さんの顔が切なそうに、苦しげに歪む。
呉さんが私の方へ歩み寄り、包み込むように抱き締められた。
「ごめん、ごめんな……美音」
耳元で囁かれる声と言葉に、胸が締め付けられる。
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