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「お前は覚えてないかもしんねーけど詩織、母さんの葬式にいたんだぞ」
「え」
私の肩に頭を凭れさせたまま、上目遣いで、悪戯っ子のようにニヤッと笑う呉さんに、キュッと胸が締め付けられる。
そんな視線、反則だ。
「覚えてないや……」
「はは、だろーな」
苦笑いを浮かべる呉さん。
でもすぐにその笑いを引っ込めて、またギュッと目を瞑って顔をしかめた。
「……俺は、母さんが死んでもう、あの家とは完全に縁が切れたもんだとばっかり思ってた。だからお見合いなんて……しかも詩織となんて……あり得ねぇんだよ……」
その言葉と共に呉さんの手が私の手の上に重なり、指を絡め取られる。
心臓が飛び跳ねたけど、呉さんの弱々しい苦しげな声と手の力に、彼がどれだけ悩んでいるのかがわかるような気がして、その動揺は必死に抑え込んだ。
何か言葉をかけたかったけど、掛ける上手い言葉が見つからなくて、私はただ呉さんの手を握っておくことしか出来なかった。
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