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美音の目の前で繰り広げられる大人たちの醜い言い争いを、ただ聞いているしかない。 俺なんかまだ良かった。 「(こんな話……)」 美音に、聞かせたくなかった。 美音といえば、入学当初に比べればくたびれて来た中学校指定の制服を身にまとい、静かに部屋の隅に正座していた。 肩を越すほどに伸びた真っ直ぐな黒髪が、俯く美音の顔を隠す。 そんな美音の姿に、大丈夫かと声を掛けるのさえためらってしまう。 当たり前だ、こんなの、「大丈夫か」で済まされる話じゃない。 とにかく様子を確認したくて、取りあえず顔を覗き込むと、美音はきつく唇を噛みしめていた。 ……ひたすら、痛みに耐えるように。
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