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――やっと階段を降りようとしてくれた呉さんの背中を、追いかけるように私も階段を降りる。 最近髪を切りに行っていない所為で、緩くカーブする癖っ毛が肩の上で揺れている。 痩せ型の体型だからか、普通の人に比べたら少し細身の、呉さんの背中。 紺色のTシャツに包まれたそれを、何とも形容し難い気持ちで見つめる。 その背中に。 「(……抱き着きたい、なんて)」 考えちゃ、いけないこと。 無意識に呉さんの方へ伸びていた手を急いで引っ込め、込み上げる切なさやら愛しさやらを飲み込むために、小さく唇を噛みしめた。
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