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「ありがとう!助かるよ、母さん!」 母さんの言葉に、兄さんがドン、とテーブルに腕をついて身を乗り出す。 それが結構な音量だったからか、美音が「ふぇ…」と泣きかけたが眠気には勝てなかったようで。 大人たちの緊張感を嘲るかのように、またスヤスヤと眠りにつく。 「静かにしなさいよ、まったく」 「ごめんごめん」 へらり、兄さんは眉尻を下げて笑う。 「そうと決まったらまず、寝るところを確保しなきゃね…。あと服とかも用意しなきゃだし…」 「ミルクとかは今まで飲ませてたやつは持ってきてる。あと服も、多少はあるんだけど…」 父親である兄さんはもちろん、母さんも存外楽しそうに今後の予定を立てている。 母さんが喜ぶ理由は分かる。 だって念願の初孫…になるわけだし。 うちには父親がいない。 俺が小さかった頃に出て行ってしまったらしい。 だから父さんがどう思うかは…わからないけど、多分この場にいたら喜んでいただろう。 だから多分、俺だけだ。 こうやって、兄さんの子ども――美音の登場に困惑を隠せないでいるのは。 「(……本当に)」 兄さんの子どもなんだろうか?
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